象を守ために
象牙の国際取引が
象の保護につながる
最近象牙に関して、ネットやテレビなどで様々なニュースが流れています。
センセーショナルな内容に、気になった方もいるかもしれません。
私もSNSなどを通じてあちこちで拝見しました。
よく見るとほとんどがかなり一方的な偏った論調でもあったため、独自に調査を進めたところ、ようやく公平な情報と巡り会えましたので、少しづつご紹介していきたいと思います。
ワシントン条約は野生生物の取引を「規制」するもの
まずは象牙を語る上で欠かすことのできないのがワシントン条約です。
上記は経済産業省のリンクになりますが、一部抜粋します。
ワシントン条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約))は、自然のかけがえのない一部をなす野生動植物の一定の種が過度に国際取引に利用されることのないようこれらの種を保護することを目的とした条約です
上記リンクより
つまりワシントン条約は、野生動物の国際取引を規制する条約であって、決して禁止するためのものではないんですね。
また象牙に関して、流れるニュースをまとめるとこんな感じです。
生きた象を殺している?とか、象牙の密猟が後を絶たないから象牙を使わない方がいい?とか、まるで根拠のない情報が蔓延しています。
じゃあ実際はどうなのか。
今回は、「適正な象牙取引の推進に関する官民協議会」に有識者としてご出席された、東京女子大学現代教養学部の石井信夫先生の論文を引用しながらお話しさせていただきます。
石井信夫先生の論文「ワシントン条約における野生生物利活用の考え方」はこちらから>
象牙の合法的な取引の禁止は、かえって密猟や密輸を招く
象牙は生きた象から採っているのか?
象牙の状況を理解するには、まずは象の生息する地域の現状を知る必要があります。
生きた象を殺しているかどうか?は、p124にはこんな記載がございます。
4.象牙の由来
取引される象牙は、主に自然死亡個体(これが大部分を占める)、農作物等に加害し駆除された個体、管理間引き個体に由来し、象牙の採取目的の合法的捕獲は行われていない。上記論文より
取引される象牙のほとんどが、自然死の象の牙であることが分かります。
また一部は地元住民の農作物等に害を加えて駆除されたり、増えすぎたために間引きされた象です。
つまりワシントン条約下での合法的な取引において、象牙をとることを目的に、違法にゾウを殺している実態はないと言えますね。
象と現地の人との関係は?
では地元で生活する人々と象はどのように関わっているのか?
p124
ゾウは非常に深刻な農作物食害や人身事故を起こすため、身の回りからいなくなってほしい有害動物であり、密猟は歓迎される。また、経済的余裕のない中では、わずかな収入が得られるならば、違法行為に加担することも起こりやすくなる。
上記論文より
象の近くで生活をする人々にとって、象は農作物を荒らしたり人身事故を起こす有害動物なのです。
そのため経済的余裕がなければ、残念ながら密猟などの違法行為にも加担しやすくなるといった状況になってしまっています。
合法的な取引禁止が密猟を招く原因になっている?
ではなぜ合法的な取引禁止、つまり日本のように正しく管理して国際取引を行える国がなくなってしまうと、かえって密猟を招く結果になってしまうのか?
p119
野生生物の商取引は、基本的に種の存続に悪影響を及ぼす行為であり、できるだけ抑制・禁止することが望ましいとういうのが、条約制定当時の一般的な認識であった。
〈中略〉
しかし、条約運用の過程で、附属書Ⅰ掲載による取引の単なる禁止はマイナスに作用する場合もあることが分かってきた。それは、多くの野生生物種の絶滅のおそれを高めている要因は、第一に生息地の改変・消失であり、ついでに過剰利用(および外来生物)だからである。(VIe et al.2009)。国際取引の対象となる野生生物が多く生息する一方で経済的余裕のない途上国では特に、野生生物が合法的価値を失えば、住民は、生息地をより経済性の高い他の土地利用(農耕地・放牧地など)に転換したり、ゾウやワニのように有害性を持つ基であれば駆逐したりということが起こりがちになる。保全を担当する政府機関にとっても、費用がかかるだけの活動を維持することは難しい。さらに、需要は簡単にはなくならないので、合法的取引の禁止は、かえって密猟や密輸といった違法行為を招く。その結果、対象種と生息地の現象は継続する。上記論文より
合法的取引を禁止をすると象が現地にとっての経済的な価値がなくなり、結果的に象の生息地を農耕地などに変えることになってしまいます。
そうなると今度は象の有害という部分だけが残って残念ながら駆逐され、にもかかわらず需要だけは残りますから、密猟や密輸を増やすという負の連鎖が引き起こされてしまうんですね。
象牙の国際取引が象の保護につながる
ここまでで象と現地の人々との関わりが理解できたかと思います。
つまり象牙の合法的な国際取引を禁止してしまい、地元の人と象だけにしてしまうと、逆に象が密猟して密輸する対象でしかなくなっちゃうんですね。
なぜなら自分たちが居住するためのエリアを、侵食するだけの生物になってしまうのですから。
分かりやすくいうなら、人と象の縄張り争いでしょうか?
そうならないための方法が以下です。
p120
十分な管理のもとで商取引し、得られた経済的利益を保全活動や地域開発に還元する方が、地域社会や政府担当部局の経済自立を助け、密猟の防止や保全への地域住民の支持・協力も得られやすくなり、違法行為の減少や野生生物とその生息地を維持・拡大することにつながる可能性がある。
上記論文より
p122
第10回締約国際会議(1997年)になって、ジンバブエ、ボツワナ、ナミビアの3カ国の個体群について、政府が所有する在庫象牙を1回限り(one_off sale)、「種の保存法」に基づく国内象牙取引管理体制が整っている日本のみに輸出し、収益はゾウの保全と地域開発だけに用いるという条件付きで、ダウンリスト提案が承認された。
上記論文より
p120
条約締約国際会議は、当該種の存続に有害でないレベルで行われるならば、商業取引は、種の生態系の保全、及び、地域住民の発展のいずれか、もしくは両方にとって有益となるであろうことを(略)認識する。
上記論文より
併せて環境省のHPもご紹介します。
アフリカゾウの保全及び象牙取引に関する我が国の考え方と取組み
この輸入から得られた収益は、条約に基づくルールに従い、全て、アフリカゾウの保全と生息地や隣接地に暮らす地域住民の開発計画のために使われています。
上記リンクより
管理した商取引によって、象と一緒に住む人々が経済的や地域開発の恩恵を受けて、逆に密猟を減らせる結果につながるんですね。
象牙の正常な国際取引を行うことが、結果的に象の生息地を維持・拡大、つまり象の保護つながることが分かりました。
最後に
石井先生はこんな風にまとめられています。
p125
商業利用はこれを認めないと保全が成り立たない必要悪だということでもない。人類は他の野生生物を消費しなければ生存できないし、さまざまな形の利用をせずに豊かな生活を送ることは不可能である。利用する際に生産地と加工地・消費地が離れていれば、当然、商取引が必要になる。野生生物を利用すること、特に商取引を含めた消費的利用は、手を触れないで遠くから眺めているだけよりも、自然と深く関わる人間本来のあり方ではないだろうか。先進国の都市生活者のように自然と偏った関係しかもたない人々が増えている現在、生物多様性そして文化多様性の保全を図るという観点からも、野生生物の持続可能な消費的利用はその意義を再確認する必要があるのではないか。ただし、利用対象となる野生生物への敬意を忘れないことも重要である。
上記論文より
命を大切にすることは、私たち象牙を扱う事業者も含め、全ての共通した願いです。
とは言え、人類は他の野生生物を消費しなければ生存できません。
そのバランスを取るためにはどうしたらいいのか?
自分の生活圏に関係ないから可哀想、自分が生きるために必要だから気にせず食べる、ではなく、もっと大きな視点で考えてください。
禁止することが、守ることではないのです。