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鈴印「象牙と印章を考える」

なぜ象牙の印章は最高級品と言われるのか

「ハンコの最高級品」と聞いて、真っ先に何を思い浮かべますか?
多くの方々は「象牙」が頭をよぎると思います。
最近はチタンやカーボンなどさらに丈夫で魅力的な素材も増えてきましたが、やはり昔から歴史と伝統のある象牙は、彫り手としても別格な認識があります。
それにも関わらずこれまで自分の中で当たり前すぎて、こういった形でその魅力をお伝えする機会がほとんどありませんでした。
また最近では、象牙に対する世の中の意識が多少変わってきたと感じているため、象牙を扱う者として、この場をお借りしてお伝えしたいと思います。

象牙が最高級品と言われる理由は、命のパワーが宿っているから

ご存知の通り象牙は、象のキバです。
牙は人間の歯や骨と同じカルシウムで出来ていて、非常に硬くて丈夫で変化もありません。
ちなみに水牛はツノで、爪と同じ成分になりますから、その違いはなんとなく想像できるかと思います。
象牙の魅力は、ずっしりと中身の詰まった重さで感じる高級感と、朱肉の油を長年かけてじっくりと吸い込み、使うほどに綺麗に写るようになる経年進化です。
ちなみに鈴印が旧社名時代に60年間使い続けた象牙の実印は、新品を遥かに凌ぎ、私も押すたびに感動を覚えるほどの写りの良さでした。

また私たちが彫刻の際に感じるのは、明らかに他と異なる力です。
象という巨大な存在の一部は、オーラと呼ぶのがぴったりなほど強烈なパワーを放ち、彫刻師に大きな力を与えてくれます。
そして人を形成する骨と同素材ですから、捺印の際にも同様のパワーを与えてくれ、ご自身の分身とも言われる印鑑に最適と言えるのではないでしょうか。

象牙の正常な国際取引が象の保護につながる

そんな象牙ですが、昨今新聞やネット等である問題がクローズアップされるようになりました。
大きく分けると違法に海外に持ち出そうとする密輸と、それに伴う密猟です。
象牙の取引はワシントン条約によって厳しく制限されていますが、法の目をかいくぐり高値で買い取る国に密輸する人間が出てしまうのは非常に残念なことです。
またそのための密猟などは言語道断で私自身も強い憤りを感じています。

それらの原因の根本を探ると、正常な取引が制限されているがゆえの弊害でもあります。
現地では農作物を食い荒らす害獣とされる象を間引き、牙や皮を輸出することで象と人が安心して棲み分けられる環境資源に当てていました。
ところが取引が停止され外貨獲得が難しくなり、結果的に密輸に頼らざるを得ない図式に陥っているのが現状です。
現地の象やその近くに住む人々の暮らしを守るための解決方法は、正常な国際取引の再開と有識者は言います。

全ては命への敬意と感謝

人間は動物や草木の命をいただくことで生命活動を維持しています。
私たち日本人は、その命への敬意を他の誰よりも大切にしてきました。
例を挙げるなら、鯨の骨や髭までも浄瑠璃の人形の部品に使うなどし全てを活用します。
魚も骨以外は綺麗に食べ、骨すらも料理して食す文化もあります。
つまり他の命で自分たちが成り立っていることを誰よりも知り、とても大切にしてきました。

象牙がなぜ昔から最高級品と呼ばれるのか。
それは印章の素材として最適なだけでなく、命に関わる全ての人々の想いがそこに宿っていたからなのです。
象の命に感謝し、丁寧に選別しながら切り分け印材に加工し、一流の職人が魂を込めて彫刻したのもが、みなさまの手元で長きに渡り大切にご使用されてきたのです。
だから私たちは、その文化を守り伝える使命があるのです。

 

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